GeForce RTX 40 Seriesがもたらす瞬間消費電力(MTP)850Wの世界はあるのか …… 熱密度を考えると困難な数字。
VideoCardzの記事及び、国内でも北森瓦版やその他Blogでも話題になっている話である。
Ada Lovelace Architectureを採用したAD102(NV182)コアの消費電力が450、650、850Wという大食漢になるらしいというものだ。
TGPで850Wを瞬発で必要とするカードが出る可能性があるようだが、GPU全体でこれだけの電力を常時消費することは冷却の観点から考えてると850WはGPU本体ではなく、プラットフォームとして求められる電力(PSU)の下限がそれというだけだと思うが……
フルサイズのビデオカードでもこれほどの電力を爆食いするとなると、熱密度が高すぎるからだ。もちろん、カードも高級オーディオカードやSLIのように物理的に2枚で一組にするような仕組みなら別だが。
電気ストープの消費電力が900W~1200Wぐらいで15cmから30cm四方ぐらいあるのに対して、ビデオカードはこのダイサイズが正しいとすれば、ビデオメモリーやコンデンサーなどがあるとはいえ、600平方ミリメートルという途方もなく小さな枠の中で、過半数の電力を消費することになる。
もし、850Wなら600W分ぐらいはAD102が消費することになり、冷却には水冷などの特殊冷却か、Color MasterなどがCPUに利用している排気筒型の冷却フィンに大型ファンを搭載することが必須になると考えられる。即ち、今はスロット2段分が多いが冷却のために3段分~4段分は必要になるだろうし、それでも足りない恐れがある。あくまでミリ秒以下の瞬発なら不可能にはならないだろうが、そこまでするとは考えにくい。
450WでGPUカード全体の消費がそれぐらいなら有り得る話だが……。それでも、10-15年前なら冷却は無理だっただろう。今それが出来るのは、サーマルダイオードがCPUやGPUの中に複数内蔵でき、サーキットブレーカーやサーキットクロックをシェーダークラスター単位で制御することで熱密度を動的にコントロール出来るようになっていることや、熱密度をなるべく抑えるために、ダークシリコンや、熱が少なくなるI/Oの位置をシミュレーションしてから、形にしているためだ。
ただ、流石に800Wに一気に引き上げるのは尋常じゃない熱量に苦しむだろう。本当に瞬発なら出来るかも知れないが、そこまでするかどうか……1枚のカードに複数のGPUを積むなら有り得るが、そうでないなら水冷など特殊冷却を組み込む形でなければ、常用は難しいと考えられる。
<半導体プロセスノードは限界域へ>
尚、Adaの消費電力が大きくなると言うのは、ほぼ確定のようだ。
これは、CPU等でも見られている傾向だが、もう性能を1.5~2倍上げるのに、微細化効果はほぼなくなってしまったからと考えられる。
性能の向上をある程度抑えて良いなら、消費電力を抑制できるだろうが、それも微細化の副作用があり、クロックを上げると消えるという特性も微細化世代が進むに連れて深刻になっている。
何故、微細化するほど高クロックで消費電力が増すのかはとても単純な図式だ。回路を水道のホースと思えばよい。
クロック周波数が高いというのは、1秒間に流す水の量が多くなることを示す。水の量を増やすには、水圧(電気だと電圧)を上げることで、増えるのだ。それに呼応して水の流入量(電流)も増える。大きなホースだと、水圧を上げて水量を増やし、1度に流れる水が増加しても、ホースが膨らむ程度である。
しかし、小さなストローのようなホースだと、水量を増やしても大きなホースほどの水流は生じない。それが大きなホース並みになるほど強い水量にすると、管が破裂したり、つなぎ目から水漏れが起きるだろう。半導体の回路でもこれと同じ事が起きる。物理的に細い回路に電圧を掛けて、クロックを上げると細い海路の周りの絶縁体を超えて、周辺に電力が漏れようとするのだ。その際に、熱に変わる。これが、leakage(リーケージ/漏れ電流)と言われる現象だ。
微細化された半導体ではクロック周波数を上げるほど、熱漏出が急増する。その一方で、一定までの周波数では、電力を大幅に削減できることがある。今のCPUだと、最大2.4GHz~3.2GHzぐらいまでがそのラインとなる。尚、GPUだと0.8GHz~1.4GHzぐらいになるだろう。GPUの方が低いのは、単純に演算器の回転効率の差である。GPUはCG関連の命令に特化しており、演算器の種類も基本は1つ(FPU)をベースにした組み合わせだ。それを並列で動かすことで処理性能を得ている。
それに対して、CPUは処理系がALU、FPU、AGU/FPU、FPU/AVX/SSE、etc...に分かれており、使うプログラム、ソフトウェアによって使われる演算器が変化する。1+1の整数計算の時にはALUが動いているが、他は止まるという形だ。そのため、同じダイサイズでもGPUに比べて数分の1の熱密度に留まる分、クロックを引き上げられるのだ。ある意味では効率が悪いからこそとも言える。
話を戻そう。
これはIntelの10nmでも苦戦していたそれと同じ問題なのだが、スマホでも徐々に出はじめているフラッグシップ製品における消費電力の増加、バッテリーの持ちが悪くなる現象が、いよいよデスクトップでは深刻になってきたことを意味している。もう、数字上の微細化と実際の微細化による電力を抑える効果が、見合わなくなっているのだ。
その一方で、フラッグシップの性能は一部から求められる。NVIDIAはそのフラッグシップの性能を武器にしていると同時に、フラッグシップをベースにした、HPC(High Performance Computing)も売りにしたサーバー/データセンター、自動運転などの製品にも取り組んでいる。だから、クロックをさらに引き上げ、且つトランジスタ数を増やしたいというのが目標なのだ。
結果、上位の電力要求が上がる流れなのは変わらないのだろうが、多分PSUが800Wクラスを超えるならともかく、GPUが800Wを求めるかというと、Thuderboltの外付けカード専用にでもするなら別だが、そうでなければ難しい気がする。
<下位はどうなるか?>
尚、RTX 4050が出るかどうかはまだはっきりしていない。出るにしてもデスクトップ版は来年以降になるだろう。
次は外部電源不要の4050が出てくれば良いが、ray tracingを十分な性能で求めると、ビデオメモリーが8GB以上でコアクロックも高くする必要があるようなので、外部電源は引き続き求められるかも知れない。
そもそも、Windows 11の登場で、GPUだけのアップグレードを求める消費者は減少する流れが確定し、本体の買い換えでGPUを求める人は、価格の上昇に悩んでノートPCで選択する人も増えている。
AMDやIntelのiGPU戦略にもよるが、GPUの価格が高止まりするなかで、NVIDIAは徐々にミドルラインの製品も減らして行く可能性が高い。
既に、ローラインのGT seriesは2世代(20,30 series)出ていないし、4050 seriesがでない時代になってもおかしくはない。

