スパコン「富岳」、省電力世界一 「京」後継機―富士通・理研……試験機とはいえ、Armの売り文句の割にワットパフォーマンスは”悪い”。

時事通信社の記事である。SPARCからArmへとシフトチェンジした富士通の発表に関する話題である。表向きでは良い話だが、Green500を見る限り、Armが売り込んできた程のワットパフォーマンスが達成出来ているとは今のところ言えない。そして、富士通が当初言っていたほど凄い電力性能ではない。まあ、これはあくまで、試験機なので、これからチューニングが行われるという前段階でこれなら、期待出来るのだろうと信じたいが、そうじゃないならパフォーマンス比較でのArmの強みがあるのかは微妙なところだ。


2番目のURLにgreen500のワットパフォーマンスを見ると、2位と1位では16.256GFlops/W(NA-1/日本)と16.876GFlops/W(富岳/日本)で620MFlopsしか差は無かったようだ。しかも、相手はIntel Xeon-D-1571(Broadwell-EP/16C/32T、TDP45W×79,440)のソケット構成である。
ちなみに、2018年にはPEZY Computingの同じプラットフォームで、6月、11月に菖蒲システムB(富岳と同じ理化学研究所)が18.404GFlops/W、17.604GFlops/Wを達成している。始まりは2017年の11月だが


と、私は思った訳だが、まあ記事を書く書き手はたいていこういう過去のデータとの比較はしていないだろう。もしこれが完全チューニング済みで、ノードを増やすだけの完成品なら、プロセッサーノードが増えるほど電量効率が下がるケースも多い。あくまで、試験機なので今後改善されていくのだろうが、確かにSPARCよりは良いが、SVEの電力効率においてArmが圧倒的にとは言い難いのは間違いないといえよう。

まあ、これはArm v8.x系で並列度と命令セットの内容が充実し上がっていく中で、既にスマホでも如実に表れ始めていた(バッテリー容量を増やさないと、高付加アプリケーションを動かすとバッテリーの消費が激しくなる)ので、それを考えるとTDPが45Wと低めのBroadwell-EPと良い勝負になるのは仕方がないだろう。あとは、処理効率をどこまで引き上げられるかである。


<省電力ならArmという神話は終わるかも知れない>

ここで思うのは、IntelがTremontのAtom Cでサーバー向けを出し、それを使って大規模サーバーを組んだらどうなるんだろうか?という疑問だ。
Tremontは10nmで製造され、同じクロックならSandy Bridge~Ivy Bridge相当の性能を発揮すると推定される。それをTDP40W以下の範囲で実現でき、最高2.5GHz前後ぐらいで動くのでは無かろうかと予想される。サーバー向けなら、16コアの製品が今でもCにはあるので、常時2GHzで動作するなら、で1.3GHzのXeon D-1571とほぼ同等になるだろう。

最大性能では圧倒的にはならないが、電力性能ではサーバーでもTremontがArmを上回る可能性は高い。逆に言えば、今Armは電力性能で売り込んでいるが、性能を追いすぎてどっちつかずになり始めている可能性がある。


<総合的にプロセッサーとして今最強はPower Systems AC922>

ちなみに、これはあくまで今の話であり、富岳の全ノードが稼働したあとの評価はまた別に行うことになり、Greenだけのスコアを元に書くとこうなるというものだ。実は総合的にプロセッサープラットフォームとして現在性能のバランスが最もよいのは、IBMのPower System AC922を採用したSummitやSierraである。これらはTOP500でも1位と2位にあり、Greenで5位と10位だからだ。全部が稼働したときにTOP500でこれらを上回るのはもちろんだが、全ノードが動き出したときに電力性能が下回らなければ確かに良い品になるだろう。

尚、ノード数が一定以上に増えていくと電力効率が落ちることは良くあることだ。だから、試験機の電力という段階で言うと、上記した他の方が電力効率は良い恐れがあるという問題の方が大きくなり、一方で最終版の見込み評価はまだ出来ないという状況になる。だから、ここで一喜一憂するレベルでもないが、喜ぶなら憂慮の方もちゃんと見ておかなければいけないだろう。


ここからは蛇足であるが、ちょっと長くなることだ。
何というか、昔はあまりこの手のNo1は新聞社などではあまり上位には書かれなかった。経済面などの一部分に書かれたり、PCや産業雑誌、ネットの専門サイトで書かれる程度だった。しかし、今は結構それが表の見える場所で書かれてさらに、消費者も結構喜んでいるのが目に付くのが気になっている。私はそれが、日本が衰退しはじめている原因だと思っている。


<No1が好きだけど……2位でも売れるならその方が良い>

基本的に私は今の日本は異常だと思っている。正直売れるならNo2でもNo3でも良いと思っている。

何故かNo1は何でも素晴らしいと思っている人が多いことに驚く。実は世界で考えるとそうでもないというのに。No1だから売れると思っているなら、それはない。No1の速度だから研究が世界で最も進むとか思っているとしたら、おめでたい。おめでとうと言ってあげることは出来るが、それだけだ。商業的な製品に対するNo1は、いわゆる運動会や芸術評価などにおける個々のNo1とは別物だからだ。それを理解出来ていない人が増えているような気がする。
その発想そのものが、日本の市場成長性を落としていることをもっと日本人は自覚すべきだ。

誰でも、分かり易い現実で言えば、今年SHARPはハイエンド(Snapdragon 855搭載、8GBメモリー、256GBストレージ)の6.4インチでは世界最軽量の143gのスマホを発表した。AQUOS Zero2という機種だ。それが世界で凄く売れるのかというと、それほど猛烈には売れないだろう。理由は、バッテリー容量が少なく、価格が高いと予想されるからだ。何より軽いから売れる訳じゃない。ソニーの縦長21:9のCinemaScope動画対応で世界初を自画自賛していたスマホは10万ぐらいするが、Huaweiの方が実は世界で売れ、日本でもiPhoneには及ばないのは、性能の割に価格が高く、まだその画面比に馴染みもない(アプリの対応が不十分だ)からだ。(続ければ売れるかも知れないが、後継は21:9じゃないらしいという噂なので、また続かない病になるかもしれない。そして、数年後に21:9が普及していたらお笑いだ。)

これが示すのは、No1が1つあるから売れる訳じゃないということだ。同じNo1でも時代や傾向によって売れるNo1と売れないNo1があるということを意味する。No1はないよりマシな場合もあるが、No1に力を入れすぎてしまうと、ただ自己満足に終わる。1つ2つのNo1より、いくつもある項目で全てNo2やNo3の方が実は評判が良く売れることだって多々ある。


<日本は古くからを死守するNo1、世界は新しく生み出すNo1>

日本ではブランドのイメージ戦略上、No1だから良いというのは、良く言われるが、実は、今HPC分野では性能よりも、目的に対して値段が適正かどうか、保守が適正なのかで売れ行きが決まる。世界ではNo1だから売れるのでは無く、むしろ売れるものがNo1になるぐらいの発想の方が強い。昔の日本はそうだったが今はそうじゃない。今の日本と世界の大きな違いはここにあり、日本は今ある何かしらの分野でNo1であること、あり続けることが目的となる。それに対して、世界は今まで予想もしない新しい分野でNo1を生み出すことで成功を収めていく。

即ち、古い価値観に囚われ続けるか、皆がこれは新しい欲しいと思う価値観に進んでいるかの差だ。

LenovoやHPEの製品が売れるのは、そういう点が評価されてのことだ。これらは、実はTOP500やGreen500のトップ10でメジャーなブランドとは言えない。そこが実はミソだったりする。売れる事と性能が高いことは必ずしもビジネス上のイコールではない。


科学研究などにおいて性能が高いことは優位なのかというと、これまた今は違う。
HPCによる研究計算は予測を立てる場合や、結果を出すために使われるが、その計算が正しいかどうかはやってみないと分からない。だから、速度が速ければ新しい成果が出る確率が上がるという点でより高速なものが優れていると言えるが、逆に言えば計算式を考え使う人が凡人であまり成果を残せる見込みがない人なら、幾ら凄いハードでも成果はずっと上がらないということになる。その昔話題になったSTAP細胞があるかどうかをHPCで計算しても、ないものはいくら計算しても出て来ないということだ。

そのため、実は凄い最速ハード1台より、中規模ぐらいのハードがいくつもあって、空いている時間がけっこうあり、簡易計算で真正性だけある程度示し、あとは海外なり国内なりのより優れたサーバーでということの方が成果が出やすいケースもある。

そして、世界のHPC(High Performance Computing)は、急速に変化しているというのも大事だ。HPCは商業ビジネス化が進んでおり、いわゆる大学などと共同で何かをするのではなく、Microsoft、Oracle、Google、Amazonなどのクラウド会社のHPCノードを借りて必要に応じて計算し対価を払うビジネスも広がっている。日本ではスーパーコンピューターと呼んでいるが、今ではHPCという自宅に居ながら、AmazonやMicrosoftの算術計算クラウドのAPIに処理を依頼することも出来る。(お金が掛かるものもあるので注意が必要)

そのぐらい身近なものだ。

昨日はZホールディングスとLINEのJV記者会見を見たが、見た人は結構肩透かし感を喰らったのは、対抗すると良いながら何もこういうリソースの差に対する発言や持っているリソースを売り込む提案では無く、余ったリソースを公開し活用するような話もなかった。日本は本当に自分の会社が持つものを公開せずに独自でものを作って売ることに固執する「箱型」が好きだ。

こういう部分は、結局日本人がLINEやYahooのようなサービスに触れる中で、欧米や中国のスタイルをあまり見ていないことに影響を受けている可能性が高い。彼らは既に、使わないコンピューティングリソースを余った土地を貸し出すように、貸し出す仕組みに変えているのだ。結果的に、最上の1台を必要としなくる一方で、最上のリソース共有(利用)能力を備えつつある。富岳はHPCの扱いやすさなどを売りにするとしているが……出来る範囲はまだ狭くてもAWSやAzureの方がもしかすると……と、知っている人は思うだろう。あとは、どれだけ使える範囲が広がっていくかである。


そのように見た時に、日本は何を目指しているのかが不明瞭であることが分かる。HPCにしても、NO1を取って何を研究し、何を最終的な成果として発展させるのかは分からない。要は、広告としてのNo1が到達点になっているのではないかというとこになる。これは、YahooやLINEの合併でも言えることだ、日本No1や、アジアNo1クラスに例え一時的になったとしても、それが目的で留まっているなら、何の価値もない。その先は下手をすれば衰退だ。
AOLとTime Warnerの合併(当時のこれはVJによる合弁ではなかった)みたいに最後は失敗するだろう。


そして、それを危惧させてしまうのは、省電力世界No1が踊る記事だ。もし、それを正しく評価するなら、それをちゃんと分析する力を持ち、その内実を見てこれからこれをどう活用するか、この結果からどんな未来が見えるかを考え、より良い結果に向けて動く必要がある。そこが本質で、HPCにおいてNo1は到達点ではないのだ。もちろん、圧倒的No1だと分かるなら別だが、この記事におけるNo1はかなり危ういNo1であるのは過去のGreen500のデータを見ても分かる事だ。過去の菖蒲システムBに電力効率で劣っているのだから。

ただ凄いとか、ただダメではない。正しく中身を見極めれば、ここから何が発展するか、どういう使い方に向かうべきかという未来が人それぞれに見えるはずだ。尚、凄い流石日本の技術と言っている人は、ただそれだけであり、別にそれを知っている人でも何でも無い。ただ読んで思っただけに留まる。
はっきり居れば、この分野は省電力を狙うならお金さえドブに捨てるぐらい投資すれば、中国でも作れるだろうし、米国だって作れるだろう。それをもし日本がやっていて日本の技術力の賜物と言うなら、日本は最近は世界で通用しなくなって来たソニーのスマートフォンXperiaみたいな状況になっていると言える。

そのぐらいの話になる。


まあ、何らかのNo1をこの富岳には求めているからこういうことになるのだろうが、そこまで言うには物足りないワットパフォーマンスであることは間違いない。このワットパフォーマンスだと、No1をずっと死守できるとは限らないからだ。そして、それが目的として高いコストを掛けて開発しているなら、HPCを1100億円で入れるのも阿呆らしいとも思う。No1を目的化するより、それがどういうビジネスを生み出すのか、技術革新や日本の発展に貢献するのかが語られなくなって悲しく、そしてそれに踊らされている人が多いことに寂しさを感じる。

パフォーマンスの話をするなら、もっと前半に書いたように、これって危うくないとか、全ノードが動いたときにどうなるかを、語れるぐらいの人が多く居て欲しいし、そうやってもっと高尚な話題が広がることがこの国には必要だ。



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