「1人産めば1000万円支給」で少子化は解決する\\\甘い話には裏がある。

ITmediaの記事である。書籍の紹介記事のようなので、そちらには書かれているのかもしれないが、ビジネスなのにデータが殆どなく、机上で進んでいるのが気になった。ビジネス記事なら空想ではなく、データをちゃんと示さないとダメと思うが……。まあ、自己啓発なら別なのだろうが……

これは、よくある子育てにおけるばらまきのお話である。額がデカいということを除けば典型例だ。
しかし、大きいから効果があると思えてくる人が居るとしたら、それは本当か計算した方が良い。「そんな高額を支給する財源がどこにあるんだ」が本当に大事なのだ。ちなみに、こういう方法でトランプ大統領は大統領になり、イギリスはブレグジット問題を抱えたことは分かる人なら分かる話だ。

今の現実に即してデータが明確にあるなら、やっと議論の底辺に付けるが、夢で語るならビジネス記事として三流である。ということで、実際に計算して見る。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1904/24/news035.html


<財政と経済の現実>

産まれたら、1000万円に必要な予算からだ。2017年の出生率で考えた場合、年間に生まれた子供の数は、94万6000人である。これを元に、単年度の予算を計上すると、最低でも9.46兆円になる。これは、1000万円×94.6万人だからだ。尚、例えば子供の数1.2倍増を目指すと、約12兆円(11.3兆円だが足りなくなってはいけない)必要である。


ちなみに、これがどれほどの予算かというと、日本の国家公務員の数が、58.4万人(平成29年度)で、平均年収が675万円のよう(民間調べ)なのでそれを元に出した年間の公務員人件費が3兆9420億円ということになるので、倍以上になる。

ネットでは希に、公務員を減らせばという話が出るが、国家公務員をゼロにしても、この予算は出ないので覚えておくと良い。(ちなみに地方公務員は予算が地方なので別である。これと混同している人も結構多い。)

では、何から持ってくるか?この場合だと、きっと高齢者を中心とした福祉予算を減額しようという話だろう。

参議院の平成31年度社会福祉予算資料にPDFがあったのでそれを元に計算すると、

年金約12兆円
医療約11.8兆円
介護約3.2兆円
少子化対策約2.3兆円
社会福祉費等4.6兆円

で、約34兆円という内訳があった。ここから、12兆円になるぐらいの減額をすることにした。
年金で6兆、介護1兆、医療5兆。

年金は、20%ぐらい削減し、医療費は5兆抑制(全体で35兆~38兆)のために14%負担率を上げる必要がある。
介護は、33%負担額が増えることになる。


これを元にみずほコーポレート銀行が出しているPDFの資料から、高齢者市場の減少率を算出するとえらいことになる。まず2015年の段階で、家計消費に占める60歳以上の消費割合が4割を超えており、2020年には43%になる。市場は72兆円→74兆円(2.8%増)になると見込まれるが、それが生活で20%下落することになる。
74兆円の市場が59.2兆円になるわけだ。即ち、今国内の高齢者ビジネスを基点にしている企業が、2割業績を落とすことになる。あなたのお仕事は、どうだろうか?

介護だと33%負担増になるため、一部の個人は介護施設に高齢者を預けたり、介護サービスを受ける回数を3割減らさないといけなくなる。そうなると、民間事業者は撤退や廃業することになるだろう。すると、今親が介護を受けていたり、施設入居している場合、それら撤退から自宅に彼らが戻ってくることになるかもしれない。

笑えないはずだ。医療費負担を15%増やすのは、高齢者だけでなく全体で医療費の自己負担額を3割から45%(4割または5割)で増やすことを意味する。これは、製薬会社や医療機材業者には悪い効果を与えるだろうが、勤務医や一部のドラッグストアからすれば楽になるかも知れない。

尚、起債で全て賄うと、最小で12兆円ほど国債が毎年増えることになる。現在、利回りは日銀の買い入れによってマイナスだが、これは日銀の金融政策がマイナス金利だからである。経済が2%成長を達成することがあるかは分からないが、それが起きたと仮定したとき予算より償還借換のコストが逆転するような状況になれば、デフォルトやデノミネーションなどで予算に占める債務を減らす必要がある。(実際に国債費は2015年の段階で既に24.3%ある

では、これを他の予算の削減から出せないか、消費税増税で出来ないかなど考えて行くと、いろいろパターンはあるが、経済活動をしている人々の誰にもマイナスがない状況は生まれないどころか、これほどの予算規模なら必ず、皆が時間差はあれど、なんでこんなことをしているのだと文句を言う程度の内容になるものも多いだろう。


ちなみに、国からのばらまきはだいたい1割ぐらいの人が、子供以外に金を一気に使い切る。
だいたい半分以上の人が、将来の為に貯蓄する。残りの人は生活費に充て、数パーセント以上は生涯で余剰金として残り続けるか、期限付きの商品券なら失効するため、経済効果も配る割には限定的とされる。特に現金の場合は、その傾向が強い。

これが、入り口の話である。計算上、この予算を出すには10年ぐらい掛けて内部改革をして段階的にどこかの予算の組み直しをしないと出来ないのだ。

それから、これが最も大事なことなのだが……少子化はすぐには解消せず、子供が増えれば新たに出てくる課題も同時に解消しなければならないということが、ここではすっぽり抜けている。


<少子化解消には15~26年かかる>

例えば当該の政策が実るか実らないか分かるまでには、単年度だけそれをやっても意味がない。最低でも複数年度、10年以上続ける必要があるだろう。予算にすると産まれる子供の数が変わらないとして12兆×10年で120兆になるわけだ(この場合は失敗である)から、だいたい出生率を1.43→2.07まで増やす仮定すると、予算は最終的に44%増で安定を見込む必要がある。


子供を作るというのは大人の事情で、今日蒔いて明日芽が出るようなものではなく、正常に生まれてくるなら10ヶ月10日という日数前後かかる。だから、例えば来年この法案が出来て、成立し。再来年から始めたとしても、その恩恵を受けたいと思う人が本格的に子供を作り始めるのはその後になるかもしれない。

即ち、2021年に始まって、2022年に最初のベビーブームの火付けが始まり、そこから2~3年ぐらいは爆発的に子供が増えるだろう。しかし、ここで気を付けねばならないのは、誰がその子を取り上げるの(出産分娩に立ち会って安全に分娩をサポートするの?)ということだ。産科医は不足しており、産院も減っている。

その上、保育園や幼稚園も昨今の少子化で減っている中で、一年やそこらで優秀な医者や保育士、教諭(幼稚園)を集めることは出来ない。しかも、ベビーブームというのはだいたい数年で一端終熄する。これは、人の出産はそんなに回数できる訳でもないし、子育てというのは産んだ後からの方が産むまでより遙かに大変だからだ。

多くの人は、2~3人を大きく超えて子育てをしない。下手に毎年1000万だと子供を作っていたら、その子が高校や大学になる頃に、親は経済的に苦しむかもしれない。(現実問題として今の社会で子供を一人前に育てるのに1000万ではおつりは来ない。マイナスである。)

即ち、終息期の後にもう一段がやってくるには、子供が育ちやすい環境を持続的に維持する政策が必要になる。それは、子育て環境としての予算を計上しなければいけないということだ。これを、21世紀最初のベビーブーマーが成長する流れに合わせて、15年~26年間行い続けて行く必要がある訳だ。

それが終わった時に初めて、少子化は解消される。それまでは、少子化対策の財政支出を段階的に増やして行かねばならない。続けなければ、安定した形で子供の数が増加せず単発で終わる。

何故そこまで行かないと解消しないのかというと、その時に子供を産んだ親が、子供が6歳になり小学校に入学する頃に、学童などの不足で苦しめば、そろそろ子供の手がかからなくなったし子供をと思っていても、作らなくなるかも知れない。子供を産み育てる、もっと産みたいと思う環境は、一時的、一面的ななものではなく成長のライフサイクル(時間の流れ)において、必要なステージに必要なものが整っているかどうかによって決まる。


日本は、そういうステージで物事を見る人が少ない。金をばらまけば子育てする人が増えるというのは、確かにないよりはマシだろう。しかし、それで継続的に子供を産みたいと思う人が増えるわけでない。これは、減税政策や増税政策と同じで、それが始まった直後に、メリットがあると思う人が飛び込むだけで、それが当たり前になった後には、徐々に勢いが落ち、さらに最初の子供が成長していく仮定で出てくる問題を解決できないなら、一気に愚策化するものだ。

これが、ばらまき批判が必ず出る原因でもある。
一時金などのカンフル剤は所詮カンフル剤止まりなのであり、社会システムなどが高齢化対応の中で、少子化を崩すには、子供が増える前提の仕組みの整備も同時進行で始めていなければいけない。


<予算とステージ(ビジョン)と、育て上げることが本来は重要>

少子化の解消議論は昔からある。そこには昔からばらまきもあれば、継続的な加算金もある。例えば、企業でも子供が居る家には扶養手当が付く企業は多い。また、田舎では子供を産んだら一律100万とかもらえるところもある。しかし、それで、人口が継続的に増えるかというとそうでもない。確かに喜ぶ人もいるが……。

女性が子供を産める数、産みたい育てたいと思う数というのは、理想と現実で違う上に、加算金があってもそれは既に当たり前になれば、その効果が薄くなるのだ。子供に教育や社会生活を適正に行うという状況になると、長い目で見た経済的社会的な問題から、難しくなることが多いからでもある。

永遠に続く効果などない。

フランスが1.9程度の出生率まで改善したのは、移民がある程度いたことと、制度を無理なく安定的に作り出したこと、国民性として子供を皆で育てている傾向が強いからでもある。要は、子は社会に取って宝なのだ。それでも、実は若者が就職難で荒れるような裏の顔もあり、少子化が改善されているから全て順風というわけではない。

まあ、少子化だけでみれば、フランスで考えられる少子化対策の基本を考えもしないのが、日本だ。金で解決できると思っている人も多いからタチが悪い。しかも、現実に出来ることかどうかは、置いて話すなど、ビジネスとして考えてもおかしな話が未だに行われている。実業家のアイデアとして見るなら、トランプ氏のような人がいるので、今はありなのかもしれないが……。

本当の意味での解消にはほど遠い発想だ。

そして、最も問題なのは
毎年1人産めば、今の給料+1000万で、年収一千幾らみたいな皮算用をする人もいることだろう。もしその勢いで考えている人が多ければ、その子をちゃんと君は育てられるんだよね?と聞きたくなる。子供は育つまでに手も時間もかかるものだ。子供が増えるだけで勝手に社会が消滅しないと決まる訳ではない。

労働だけで見ると確かに、そう見えるが、これから育つ子供が社会を崩壊させることだってあるのだ。

子供がしっかりした大人になれる社会で、子供が大人にならないと、あなたや社会は誰かの子に殺されたっておかしくない。テロリストや社会における不適格者(虐待、殺人などをする大人)はそうやって産まれてくるのだ。

それを忘れてはならない。


まあ、こういう記事は私もここで何度か書いたことがあるが、ある程度予算などを示すことが重要だ。そうしなければ、机上の空論が空回りして、政治家の中から、お馬鹿さんをつり上げてしまうことも今では本当にあるからだ。もちろん、この発想(議論)そのものが悪い訳ではない。ただ、議論するにはプロセスとして現実に即して考える姿勢が求められる。



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